大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(う)1874号 判決

被告人 江口義時

〔抄 録〕

論旨は、原判示ビラは日本共産党の政策宣伝の文書であつて被告人の当選を直接目的としたものではないから公職選挙法第一四二条に違反するいわゆる法定外文書ではないのに、原判決がこれを法定外文書だとしたのは法令の適用を誤つたものだというのである。

そこで検討してみるに、公職選挙法第一四二条第一項にいう「選挙運動のために使用する文書図画」とは、その文書図画の外形内容自体からみて選挙運動のために使用するものであることを知ることのできるものをいうのであるが、それは、その趣旨が文章によつて明白に示されている場合だけでなく、その外形内容がその趣旨を暗に示していて、見る者がこれを了解することのできる場合をも含むと解しなければならない。ところで、原判示ビラは、そこに被告人に投票を求めるということが明示されていないことはたしかであるが、まず冒頭に被告人の写真を掲げ、その下に被告人の氏名をかなり大きい活字で印刷してあり、「私は日光市政に『五つの政策』を要求する」と題して五個の要求を掲げたうえ「あなたの要求を市議会に」と印刷してあるほか、その後半には日光市委員長鈴木全也名義の「江口地区委員長の五つの政策について」と題する一文も印刷されているのであるから、当時近く日光市議会議員選挙が行なわれることを知つていた日光市民がこれを見れば、被告人が右の選挙に立候補する意思を有しており、かつ選挙の際被告人に投票することを求める趣旨のものであることは容易に了解されるところである。論旨は、このビラは日本共産党の日光市政に対する要求を掲げただけの政策宣伝の文書だと主張するけれども、もしそうならば党もしくは地区委員会などの名義をもつてすればよいわけで、あえて被告人の氏名を大書し写真まで掲げる必要は少しもなく、また「私は」とか「江口地区委員長の政策」というような文言を記載する必要もなんらなかつたはずである。すなわち原判示ビラはまさしく論旨にいわゆる「被告人の当選を直接目的とした文書」に該当するのであつて、党の政策宣伝のビラが結果的に被告人に利益をもたらすような場合とは趣を異にするから、原判決がこれを公職選挙法第一四二条第一項にいう「選挙運動のために使用する文書」だと解したのは正当であり、法令の適用の誤りがあるとはいえない。それゆえ、この点の論旨もまた理由がない。

(新関 中野 伊東)

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